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東京地方裁判所 昭和45年(手ワ)1898号 判決 1971年10月13日

原告 株式会社三和銀行

右代表者代表取締役 村野辰雄

右訴訟代理人弁護士 大林清春

同 池田達郎

同 白河浩

被告 有限会社三和商事

右代表者代表取締役 池田哲也

右訴訟代理人弁護士 日下文雄

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

一  請求の趣旨

(一)  被告は原告に対し金二八五万三〇〇〇円およびこれに対する昭和四五年二月一四日から完済まで年六分の割合による金員を支払え。

(二)  訴訟費用は被告の負担とする。

(三)  仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

主文同旨

三  請求の原因

被告は別紙手形目録記載の約束手形一通(以下本件手形という)を振出し、原告はその所持人である。原告はこれを呈示期間内に支払場所に呈示した。よって原告は被告に対し右手形金とこれに対する満期から完済まで手形法所定年六分の割合による利息の支払を求める。

四  請求原因に対する答弁

請求原因事実を認める。

五  抗弁

本件手形は原告が原告岩本町支店で訴外高木恵三から割引きにより取得したものであるが、昭和四五年一月一六日同訴外人は現金を支払って本件手形を原告から買戻した。そこで原告は本件手形をただちに同訴外人に返還すべきところ、たまたま手形が原告の手形センターに保管中で、右岩本町支店になかったため、これを取寄せる間、一時原告が同訴外人から預ることとしたものである。しかるにその後原告は本件手形を右訴外人に返還することを拒み本訴請求に及んだものであるが、右のように原告は本件手形金を裏書人である前記訴外人から一旦弁済を受けながら、同一の手形で振出人である被告にさらに再度これを請求するもので、このような請求は許されないというべきである。

六  抗弁に対する答弁

抗弁事実を認める。

七  再抗弁

(一)  昭和四五年一月一六日訴外高木恵三と原告との間で本件手形の買戻が合意された際、これについて次のような特約が附帯条件として合意された。すなわち、訴外高木恵三が本件手形買戻の申入れをするため原告岩本町支店を訪れた前記昭和四五年一月一六日には、同日を支払期日とする同訴外人振出、第三者裏書の約束手形八通額面合計金一、二九五万五、五八四円が原告日本橋支店および室町支店から支払場所である右岩本町支店に支払のため呈示されていたが、その決済のための同訴外人の預金は不足していた。原告は同訴外人が右振出手形の決済資金を調達し、これを決済することを条件として、同訴外人の申出に応じ、預金を解約し、本件手形を同訴外人裏書の割引手形四通額面合計三二一万六、〇〇〇円の買戻手続をなし、その差引残金八八万七、〇九七円を現金で払戻した。すなわち、もし同訴外人が前記振出手形の支払をしない時は割引手形について買戻の効果が発生せず、原告がこれについて権利を留保することを条件として右買戻および預金解約の合意が成立した。しかるに同訴外人は前記振出手形の支払をしていないから、買戻の効果は発生せず、右訴外人は原告に対し本件手形の返還請求権を有しない。

(二)  仮りに右(一)の事実が認められないとしても、被告代表者池田哲也は右買戻の交渉に訴外高木恵三と同道して原告岩本町支店を訪れ、その際前記買戻の条件を承認したから、これにより買戻による手形原因関係消滅を抗弁とすることを被告は原告に対して放棄したものというべきである。

(三)  以上の主張が理由がないとしても、次のとおり主張する。

1  原告は訴外高木恵三と昭和四二年一二月一四日手形貸付、手形割引等の取引について銀行取引契約を締結したが、右契約中には次のような条項がある。

(1) 右訴外人は手形の割引を受けた場合、原告に対する債務を期限に弁済しなかったとき等には全部の手形債務について当然期限の利益を失い、手形面記載の金額の買戻債務を負い、直ちに弁済する。

(2) 右訴外人が原告に対する債務を履行しなければならない場合には原告は同訴外人の債務と諸預け金その他の債権とを期限の如何にかかわらず相殺することができ、差引計算の後なお債務が存する場合、手形に右訴外人以外の債務者があるときは原告はその手形をとめおき、取立または処分のうえ債務の弁済に充当することができる。

2  ところで前記のとおり昭和四五年一月一六日原告は右訴外人から取得した本件手形を含む割引手形四通と同訴外人の預金とを差引計算したが、なお同訴外人は前記のとおり同日満期の同訴外人振出の約束手形金債務一、二九五万五、五八四円を負担していたので、原告は前記契約条項により本件手形をとめおき、右訴外人以外の債務者である被告から手形金を取立て、これを右残存債務の弁済に充当することができるものである。

八  再抗弁に対する答弁

再抗弁(一)の附帯条件に関する合意成立の点、同(二)の被告がこれを承認したことはいずれも否認する。同(三)の特約の存在は不知。

理由

一  請求原因事実、抗弁事実とも当事者間に争いがない。

二  そこで再抗弁について順次判断する。

(一)  本件手形買戻の効果発生を訴外高木恵三が昭和四五年一月一六日満期の同人振出手形を決済するとの条件にかからしめる旨の合意の成否について

≪証拠省略≫によると、昭和四五年一月一六日訴外高木恵三は本件手形を融通手形として同人に対し振出していた被告の代表者池田哲也と共に原告岩本町支店を訪れ、右訴外高木の定期預金を解約し、その解約払戻金の一部で同人が裏書して同支店で割引いていた本件手形を含む約束手形四通を買戻し、残額約八八万円を現金で払戻を受けたこと、ところでその際同訴外人が右支店を支払場所として振出し、右同日満期が到来する約束手形が額面合計一、二〇〇万円以上あり、その支払にあてるべき預金は不足していたので、応待した原告行員は高木に右支払手形決済資金の準備について尋ねたところ、高木はこれを調達するつもりであり、本件手形を含む割引手形買戻も、同人としてはそのための方策とするつもりであったので、その旨を答えたこと、原告行員はこれを信頼したので、前記定期預金解約、割引手形買戻に応じ、その手続をとったこと、手形は原告手形センターに保管中で右支店にはなかったので、これを取寄せてから返還する旨を約したこと、しかし結果的に高木は右支払手形決済資金を準備することができず、手形を不渡にして倒産したこと、以上のような事実は認めることができる。しかしながら、その際原告の主張するように、さらに進んで、右両者間に右割引手形買戻の効力を支払手形決済の成否にかけ、これができた場合にのみ買戻の効果を発生させ、もしできなければ買戻の効果を発生させない旨の合意が成立したことを認めるに足る証拠はない。原告行員の側としては主観的に右のような意向を有したことは認められるが、割引手形の買戻と振出手形の支払とは当然の牽連関係にはないから、高木の側でも右の場合に原告行員と同様の意思を有したものと推認することもできない。

(二)  買戻の抗弁の放棄について

原告は被告代表者が原告と訴外高木との間の本件手形買戻に関する前記のような原告主張の附帯条件を承認した旨主張するが、この趣旨に沿う≪証拠省略≫は≪証拠省略≫と対比すると、これのみによっては原告主張事実を認めるに足りないし、他にこれを認むべき証拠はない。

(三)  銀行取引契約の特約条項について

≪証拠省略≫によれば、原告と訴外高木の間の銀行取引契約に原告主張のような特約条項が存在することが認められる。しかしながら右特約条項の趣旨は、銀行が取引先から割引手形を取得している場合、その取引先の信用が失われた時に、割引手形について直ちに買戻義務が生じ、これと預金等を相殺したのちに、割引手形に他の手形債務者があるときは、これを銀行の右取引先に対する他の債権の担保に流用するために、右割引手形をとめおき、取立ができることを一般的に認める趣旨に過ぎず、既に特定の割引手形について買戻、手形返還の合意が成立したのちに、右条項に定めるような取引先の信用喪失事由が発生したからといって、ひるがえって既に成立した個別的な買戻済手形返還の合意の効力までも任意に否認し得ることを定めた趣旨にこれを解することはできない。本件についてこれをみるに、前記のとおり訴外高木が振出手形を不渡にする直前に既に本件手形について買戻、返還の合意が成立していたものであるから、原告は右特約条項を盾に本件手形買戻の効力を否認し、その返還を拒むことはできないというべきである。

三  以上のとおりであるから、原告主張の再抗弁はいずれも理由がない。前記争いのない抗弁事実によれば、原告は本件手形を訴外高木から割引により取得したが、同人との間で買戻の合意が成立し、手形金の支払を受けて本件手形の返還を約したというのであるから、かかる場合原告は振出人である被告からさらに手形金の支払を求めることは、手形法一七条の趣旨に徴し許されないというべきである。

よって原告の本訴請求は理由がないからこれを棄却し、民訴法八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 白石悦穂)

<以下省略>

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